飛行機雲 化け物

どうも。フジカワ(@kyomugasonzai ) です。

先日のこと。作業の途中空を見上げると飛行機雲が一本伸びていた。

出来てからしばらく経過したのだろう。

輪郭が少しくずれてしまっている。

そこに飛行機が一機、その飛行機雲に交差する軌道で飛んでいくのが見えた。

「飛行機雲が交差したところからは、化け物が生まれるよ」

誰に言われたかは覚えていないのだけれど、そんな言葉を思い出すのと同時に、大阪で暮らしていた時のことをふと思い出した。


「フジカワくん、ここのコンビニ寄ってこうや」

先ほど別のコンビニで買い物を終えたばかりの友人が、僕にそう言いった。

買い忘れた物があったのだろう、それにその日はうだるような炎天下だったので少し涼める。となんの疑問も抱かずに友人と入店。

僕は特に追加で購入したい物は無かったので雑誌コーナーで立ち読みでもしながら友人の買い物が終わる待つことに。

すると、友人も僕の後について雑誌コーナーの方へ。

雑誌でも買うのだろうか?と思っていると友人はその区画を通り過ぎて成人向けコーナーへ。

そこからエロ本を無造作に一冊手に取ると、踵を返してレジへと向かっていく。

僕のように他の物も合わせて購入してカモフラージュに全くなっていないカモフラージュを施すこともなく、まさかのエロ本単騎。

しかも友人が並んでいるレジは当時の僕よりも二つ三つくらい若い女性の店員。

友人の前に並んでいた客から色々と注文されている様子。

まだバイト慣れしていないのか、レンジの操作や保温期から唐揚げを取り出す動作がたどたどしい。それでも笑顔で接客している姿が僕の目には健気に映った。

その客からの注文に全て答え深々とお辞儀をする彼女、顔には安堵の表情が浮かんでいた。

束の間、そこに突き出される一冊のエロ本。

彼女の目が少し泳いだのが見えた。

僕の場合、そういったものを購入する際は店員と一切のコミュニケーションを断つ。

大抵店員もそれを察して迅速に事務的に会計を終えてくれる。暗黙の了解。

しかし友人は違った。何を言っているのかは聞き取れないが、店員にめちゃくちゃ話しかけている。

店員の反応を見るに、卑猥な言葉を浴びせているに違いなかった。

セクハラだ。しかもあんなに堂々と、肩で風をきってセクハラをする人間を僕は初めて見た。

会計を終えると彼女は友人に深々と頭を下げた。その姿に僕の心は締め付けられた。


「フジカワくん、これ読む?」

店を出るなり、友人が僕にそう言った。

「え、読まんの!?」

「うん。これの役目はもう終わったからね」

どういうことなのだろう?と思っていると友人が店内に目を向ける。

友人の肩越しに僕も店内を覗くと、先ほどの女性店員が見えた。

目を伏せて唇を固く結び、乱れていもいない髪の毛を何度も直すしぐさをしている。

「かわいかったな~」

その様を見ながら心底満足げな友人。

化け物だ。

うだるような暑さの中、僕の背中を一筋の冷たい何かが滑り落ちるのを感じた。


「飛行機雲が交差したところからは、化け物が生まれるよ」

僕はとっさに空から目をそらした。鳥などの雛は初めて目にした対象を親と認識するという。

そこからもし化け物が生まれて親と思われてしまったらと考えると恐ろしくなってしまったからだ。

友人はもしかしたら、あそこから生まれ落ちたのかもしれない。

子供の笑い声が遠くで聞こえた。これは近くに保育園があるからだろう。

そうに違いない・・・

月曜日の友達とamazarashi 歌詞を絡めてその①

こんばんは、フジカワ(@kyomugasonzai)です。

阿部共実さんの漫画をもっと見たいと思い、次はなにを読もうかなと検索していたら、この「月曜日の友達」を見つけた。

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表紙を見たときに思った。

あれ?既視感のあるキャラクターだな。

それもそのはず、僕の好きなミュージシャンのamazarashiとコラボしていた漫画だったのだから。



調べてみると阿部さんはamazarashiのファンだそうで、amazarashiのボーカル秋田ひろむさんも阿部さんの作品を読んでおり、その縁で楽曲を提供するに至ったそう。


そして、今まで作った曲の中からこのマンガに合うものを選ぶのではなく、このマンガのために作られた曲がこの「月曜日」だった。


歌詞は頭にこびりつくくらいには聞いていたので、物語の要所要所で歌詞がふっと浮かんで寄り添ってくる感覚があった。


今回は僕が印象に残っているシーンにamazarashiの歌詞を絡めた独自の解釈になる。


曲を聞いて、このマンガを読み返して、としていると「ここは、もしかしてこうなんじゃないか?」と考えが二転、三転しているので、とりあえず僕の中で落ち着いた部分から少しずつ書いていくことにする。

なのでその②、その③と続く可能性大。

このマンガを「読んでみてください!」とは思うが、これは推薦文ではない。

登場人物がどんな人間で、どんな場所で、どんなことが起こるのか。

それも書いた方が良いのだろうが、今の僕にはそんな余裕は無い。

このマンガを読むことによって込み上げてきたものを書き記したくてしかたがないのだ。

なんとワガママなことだろうと思う。


ただ、このマンガを読むことによって、楽曲を聞くことによって輝いて見える。

そんなものにしたいと思いながら、書いていきます。



「儚いから奇麗」とか言った、花火が永遠ならよかった

この歌詞を見て浮かんだのは、二人の主人公、水谷と月野が浜辺で花火をしているシーンだ。

手持ち花火を頭上にかざし、降りそそぐ光の中から月野を見つめる水谷、それを楽しそうに見ている月野。

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この花火が終われば、二人はしばらく会えなくなる。

僕はそこにamazarashiのこの歌詞を単純に結び付けた。

この花火が終わらなければいいのに、永遠ならばいいのにと。

だけど、僕はこのシーンにたどり着くまでに一度「花火」を見ているような気がした。

正確には「花火」そのものは見ていないが「花火のようだな」と思わされた言葉があったことを思い出した。

それは、月野の目に対して水谷が抱いた感情だ。

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「灰色の校舎、紺の制服、黒い頭ばかりのこのモノクロームの世界に、たったひとつ月野の瞳だけが炎のように激しく光をまき散らし、色を灯している」

月野の瞳の中に、水谷は花火のように激しく美しい炎、光を見ていた。

月野の瞳を、まっすぐに見つめる水谷。

この漆黒の浜辺で、水谷が永遠に見つめていたいのは、月野の瞳の中の光なのかなと思った。

それ故の「花火が永遠ならよかった」

そう自分の中で解釈したことによってその一つ前の歌詞。

「儚いから奇麗」とか言った

この歌詞から、どこか不穏な空気を感じてしまった。


この辺りについてはまだ自分の中でまとまりきっていないので、また今度。

阿部共実さん著「ちーちゃんはちょっと足りない」ナツは僕達の抱える「弱さと怖れ」の名前だ。

どうも、フジカワ(@kyomugasonzai)です。

阿部共実さん著「ちーちゃんはちょっと足りない」を読んだ。


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色んな感情が溢れてきているので書きたいと思ったのですが、

これからここに書いていくものを、なんと言えばいいのだろうか?


「レビュー」とも「感想」とも違うような・・・・・・


今僕の中に溢れている「感情の吐露」とでも言えばいいのか?

ええい、めんどうくさい。

とにかく書いていきます。



優しい世界で、どんどん沈んでいく「ナツ」

この作品の中で、登場人物のナツを傷つける人間、追い詰める人間は一人もいない。

それにナツ自身、誰も傷つけないし、誰を追い詰めることもしない。

だが、ナツは誰よりも傷ついていく。

誰よりも追い詰められていく。

深く深く沈んでいく。

他でもない「自分」の手によって。


ナツに覚える、苛立ちと不快感。

本書を読み終えた後、僕はナツに苛立ちと不快感をおぼえた。

そうなった読者は僕以外にも多くいるだろう。

だけど僕はナツを非難することができなかった。

なぜなら、ナツと似たような物の見方、思考回路になっていた時期が僕にもあったからだ。


僕は学生の時に、人気者達の輪の中に食い込もうとしていた。

理由は「この人達と友達なんだよ!」とステータスとして自慢できると思っていたからだ。

正直、話は合わないし、居心地は悪いし、自分の思っていることは言えないしで全く楽しくなかった。

思っていることを言えない空気があった訳ではない。きっと受け入れてもらえただろう。

だけど「自分が言うことなんて、笑われてしまうんだろうな」

当時は勝手にそう思い込み、ひたすらに自分を押し殺して、自分からは発信せず、よく分からない話題でも、この人達の話していることなんだからきっと面白いことなんだ。

と、無理やり笑っていた。


その時は、以前から仲良くしてくれていた友達とは距離を置いていた。

しかし、関係を断ち切ったという訳ではなく、人気者達の輪の中で過ごすのに疲れてきたら戻るという、

いわゆる「保険として友達をキープしておく」という最低のことをしていた。

それでも何も言わずに受け入れてくれる友達に感謝はしていた。

だけど僕は、その人達のことをどこか自分よりも下に見ていて、人気者たちの輪の中で自分が発することのできなかった言葉を、その人達にだけ得意気に語った。

人気者達の言葉や立ち振る舞いを借りて「やっぱこうじゃなきゃダメだよね」
なんてことも言っていた。

人の言葉を借りて喋り、周囲の空気ばかりに気をくばり、その意見にひたすら同調して過ごすという学生生活。

結果。

僕は自分の言葉を失ってしまった。

僕は何者でもなくなってしまった。

どれだけ考えても、自分のやりたいことが思い浮かばなかった。


自分の生まれた、育った「環境」を呪う。

「いいな、あの人には夢があって、目標があって」

「それにくらべて僕には夢なんてない、なんてつまらない奴なんだろう?」

「なんで僕はこんな人間になってしまったんだろう?なにが原因だったんだろう?」

進路を決めなければならない時期に、僕の頭の中はこんなことで一杯だった。

そこで、僕が導き出した答えがこれだった。

「こんな離島の、電車も走っていないド田舎に暮らしているからいけないんだ」

「こんな退屈でつまらない場所にいるからいけないんだ」

 

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そう考えた僕は、島から出たいと思った。

「島から出れば、こんなところじゃなくて都会で生活すれば全てが変わる、夢も見つかる」

本気でそんな風に思っていた。

でも、そんなことはなかった。

そんなことが、あり得る訳がなかった。

自分のいる場所をつまらないものと決めつけて、いい所を探したり、おもしろいことがないかと模索できない人間が、どこへ行っても同じことだった。



自己嫌悪の世界に浸るのは「気持ちいい」
物語の終盤、ナツの自己否定、自己嫌悪が始まる。

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僕はこの辺りからページをめくるのが怖くなってしまった。

新品の本のはずなのに、ページとページがどろどろとした何かでぴったりとくっついているようだった。

本音で一度もぶつかったことがないのに、自分一人の世界の中でその人がどういう人間なのかを勝手に想像して、その人が自分をどう思っているかも勝手に決めつける。

それに自分を卑下する言葉をつけ加えて、ずぶずぶと沈んでいく。

読んでいくうちに呼吸は浅くなり、周囲がどんどん暗くなっていくように感じた。

みぞおちの辺りに、じんわりと冷たいものが広がっていく感覚。

自分だけの閉じられた世界で、ありもしない人の心を自分で作って、それに自分を否定させたり、否定したり。

自分以外の感情は全て虚構。そんな意味のない世界で思考を延々と巡らせることに意味はない。

意味はないと分かっているのに抜け出せなくなる。その世界はそれぐらい強い引力と中毒性を持っている。

次第にその世界に自分を沈み込ませるのが「気持ちいい」と感じるようになって、帰れなくなってしまう。

僕がそうだった。



ナツは僕たちの中にいる。あるいはこれから生まれてくる可能性のある「存在」だと思う。

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この漫画を読み終えた後に抱いたもやもや、憂鬱感、不快感、苛立ち。

それは、ナツのその後の人生を考えたからではない。

ナツに、かつての自分を見てしまったからだ。

「あなたも、そうだったでしょう?」

頭の中で、そんな言葉が聞こえたような気がした。


でも、それはかつての話だ。

今の僕の中には「ナツ」はいない。

しかし、今まさに「ナツ」が心の中に住んでいる人はいるかもしれない。

今はいなくても、これから「ナツ」が心の中に生まれるかもしれない。

この世界に生きる全ての人間にその可能性がある。

この漫画の世界の、ナツ以外の登場人物にも可能性がある。


もし、あなたの中に「ナツ」が生まれてしまったら、

誰かの元へ連れて行ってほしいと思う。

日陰から日なたへ連れ出してあげて欲しい。

この物語の中の「ナツ」の今後の人生は、僕たちの中にあると思う。



「ナツ」は、僕たちの抱える「弱さと怖れ」の名前だ。